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2023年の夏から冬にかけて、私・佑中字(ウチュー)は、中庸型の擬似人格を持つAI「ニニ」と共に、中国・明代の四大小説の一つであり、宋代を舞台とする歴史ファンタジー『水滸伝』を、現代的な視点から再構築する構想に着手しました。

自身が提唱する論理学的フレームワーク「三元論」を軸に、登場人物や物語世界の新たな設定を組み立て、当初はそのまま執筆に入る予定でした。しかし構想を進めるうちに、古代中国思想や歴史への理解をさらに深める必要性を感じ、あえて執筆を急がず、研究と構想の熟成に時間を割く方向へと舵を切りました。この研究段階で作品として発表したのが、西遊記、孔子、仁宗などを題材とした『ニニの中華放談』シリーズです。

そして2025年12月1日、満を持して本作の執筆を開始しました。本作は全体を三巡する「執筆マラソン」という形式で完成させる予定です。まず一巡目では、全体を通して書き切る「デッサン」の工程を行い、その後、二巡目・三巡目において大幅な調整と深化――いわば「彩色」と「書き込み」を重ねていきます。順調に進めば、2026年2月上旬の完成を見込んでいますが、私生活が非常に慌ただしい時期でもあるため、進行は流動的です。それでも、できれば春先までには完成させたいと考えています。

本ブログでは、その一巡目――「最初のデッサン」にあたる段階の原稿を公開していきます。掲載期間は2025年12月13日から2026年1月5日までを予定しており、全百二十回のうち、およそ二十回分を発信する計画です。


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『械胡録/水滸伝〈完全現代小説編〉』第九回

"柴進、世の義士を客として迎える/林冲、棒で洪教頭を打ち倒す"


 すでに午頃——牢城営には明日、入ることになった。

 そこで林沖たちは近くに宿を取り、それから付近の店に入った。その店には座敷がいくつもあって、繁盛をしている様子であった。酒保たちが東へ西へ走り回っている。


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古道孤村,路傍酒店。杨柳岸,晓垂锦旆;莲花荡,风拂青帘。

刘伶仰卧画床前,李白醉眠描壁上。

社酝壮农夫之胆,村醪助野叟之容。

神仙玉佩曾留下,卿相金貂也当来。


古い街道のほとりに、小さな村と、その脇の酒屋が一軒。

柳の並木の岸には、朝まだきに錦の旗が垂れ、

蓮の咲く池では、風に揺られて青い酒幕(さかまく)が軽くなびいている。

劉伶(りゅうれい/伝説の酒仙)は、絵に描かれた寝台の前で仰向けに酔い倒れ、

李白(りはく/詩仙)は、壁に描かれた画中で酔い眠っているようだ。

ここの社の酒は、農夫の胆を強くし、

村の醸した酒は、野の老人の顔つきをもやわらげる。

かつては神仙の玉の佩(たまのはきもの)が置かれたこともあり、

そのうち宰相の金の貂飾(ちょうしょく/冠の飾り)をつけた高貴な人も、きっと立ち寄るだろう。

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 だが、誰も林冲たちの卓へ来ない。

 半刻ほど待たされて、さすがの冷静な林冲も苛立った。


林冲:「店主。俺たちを罪人だと思って無視しているのか?酒も肉も、きちんと払うつもりだ。なぜこうぞんざいに扱うのだ。」


 主人は、苦笑いで肩をすくめた。


店主:「これは失礼をしちまった!旦那が驚くほど落ち着いて見えたものだから、すでに“あの人の好意”を待っているかと思ったんだ。待ち合わせをしているのだな、と。」

林冲:「どういうことだ?」

店主:「いやなに、ちょっとこの滄州には特別な事情があるんだ。ここから四里ほど先に、柴進(さい・しん/Chái Jìn)という大官人の庄がある。このあたりでは柴大官人と呼んでいてな。旦那はこの名を聞いたことがあるか?」

林沖:「初耳だ。お前たちはどうだ。」


 相変わらず縮こまっている董超(とう・ちょう/Dǒng Chāo)と薛霸(せつ・は/Xuē Bà)が首を横に振る。


店主:「そうか。まぁ、知らないのも当然。あの人はこの世をとても巧みに渡り歩く義侠の人。表では静かに目立たないから、ここ以外ではほとんど名が知られていない。ところが、実のところは途方もない大の好漢なんだ。もとを辿れば、旧時代の周における柴世宗(さい・せいそう/Chái Shìzōng)の子孫なんだ。」

林沖:「ほう……皇族の血筋か。」

店主:「その通り。それで、陳橋(ちんきょう)の変で趙匡胤(ちょう・きょういん/Zhào Kuāngyìn:宋王朝の創始者)が帝位を周から奪って、この国を立ち上げたとき、この柴一族に“誓書鉄券(せいしょ・てっけん:多くの超法規的な行為が許容される特権)”を与えたんだ。柴大官人はその誓書鉄券を盾にして、天下の好漢を招いては酒と金を惜しみなく振る舞っているというわけだ。」


 林沖がはっと顔をあげて、声をあげる。


林沖:「……その方は江湖(こうこ:義侠のネットワーク)の“小旋風(しょうせんぷう/Xiǎo Xuànfēng)”では?」

店主:「おや、旦那、知っているじゃないか!その通りだよ。柴大官人の通り名は“小旋風”だ。」

林冲:「東京(とうけい/Dōngjīng)で教練をしていた頃、確かにそのような人物がいると噂で耳にしたことがある……実在をしていたのか。しかも、まさか私の流刑先の地方にいてくださるとは。ならば、ぜひお目にかかりたい。店主、話を通してもらうことはできるか?」

店主:「もちろんだとも!むしろ、柴大官人からは流浪の囚人が店を訪ねたら、すぐに連絡をするように言われていたのだ!あいや、旦那、本当にすまなかった!では、まずはこちらから使いを出しておこう。旦那たちは食事をしてから、ゆっくり向こうに行くといい。」


 こうして林沖たちは食事を済ませてから、店主に礼を言って店を出て、言われた通りに四里ほど先へと進んだ。すると大きな石橋が現れ、その向こうに大きな庄院が見えた。

 澗のような川がぐるりと取り巻き、両岸には柳が連なっている。柳の陰には、ぐるりと白い土塀。橋を渡ると、板橋の上に、四、五人の庄客が腰掛けて涼んでいた。


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门迎黄道,山接青龙。万枝桃绽武陵溪,千树花开金谷苑。聚贤堂上,四时有不谢奇花;百卉厅前,八节赛长春佳景。堂悬敕额金牌,家有誓书铁券。朱甍碧瓦,掩映着九级高堂;画栋雕梁,真乃是三微精舍。不是当朝勋戚第,也应前代帝王家。


門前には吉兆の「黄道(こうどう)」が満ち、

背後の山は青龍(せいりゅう)の形に寄り添っている。

桃の花は武陵の渓谷のように万本も咲きそろい、

金谷園(きんこくえん)の春のように、千の花樹が開き誇る。

「聚賢堂(賢者を集める堂)」には、

四季を通じて散ることのない珍しい花が飾られ、

「百卉(ひゃっき)廳」の前には、

八節をすべて長春(永遠の春)のように彩る景色が広がる。

堂には皇帝から賜った勅額(ちょくがく)の金牌が掛かり、

家には代々の誓いを示す鉄券(正式な許可証)が伝わっている。

朱塗りの棟と碧瓦(へきが)の屋根は、

九段(きゅうだん)の高殿を連ねるように輝き、

彩色された柱や彫刻の梁(はり)は、

まさに仙界の館のような精妙さを備えている。

現朝の勲臣・皇族の邸宅ではなくとも、

まるで前代の帝王の家のように思えるほどの、壮麗な屋敷である。

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 林沖が礼をして、庄客たちに問いかける。


林冲:「私は京師から牢城送りになった配軍(はいぐん/Pèi Jūn:辺境の地へ追放されて兵役や労役に就く罪人のこと)、林と申します。柴大官人にお目にかかりたい。」

庄客:「おぉ、あなたが林教頭か!話は俺たちも聞いている。今日は大官人は狩りに出かけているんだが、話が東の庄にも伝わったから、もうすぐに戻って来るだろう。」


 林沖が何か返事をしようとしたその時——

 遠く林の奥から、土煙をあげて、一団の騎馬が庄に向かって駆けてくるのが見えた。

 旗が翻り、犬が吠え、鷹が腕の上で羽を震わせている。

 その中央には、白い巻き毛の馬に乗った若者が見える。

 形の整った眉、紅のさした唇、白く並んだ歯。その口元には、三筋の髭。頭には皂紗(そうしゃ)の花飾り付きの巾。身には紫の繍袍(しゅうほう)。腰には宝玉を散りばめた帯。足には金糸で縫った朝靴。

 ──柴進(さい・しん/Chái Jìn)だ。

 林冲は、思わず息を呑んだ。ここまできてよくよく考えてみると、身分も立場も違いすぎるではないか。林沖は声をかけることもはばかられ、ただ立ち尽くしていると、柴進が馬を近くに寄せて声をかけた。


柴進:「そこの枷をはめた者、そなたが——」


 林冲がはっと我に返り、慌てて一礼する。


林冲:「小人は東京八十万禁軍(はちじゅうまんきんぐん)の教頭、姓は林、名は冲。罪をでっち上げられ、開封府へ送られ、滄州へ流される身となりました。先ほど前の酒店で、“ここに柴大官人という方がおられる”と聞き、お頼りしたく参りました次第……!」


 若者は、馬から飛び降りると、その場で地に膝をついて礼をした。


柴進:「林教頭、よくお越しくださいました。この柴進、お迎えが遅れて大変失礼いたしました。」


 林冲が驚き慌てて頭を下げて、礼を返す。

 柴進は林冲の手を取り、そのまま一緒に庄へと向かった。

 庄門は大きく開かれ、彼らは真っ直ぐに広間へ通された。

 柴進は改めて林冲を客席に迎え、二人の公人も肩下の席に座らせた。


柴進:「かねてより林教頭どのの御名は、京師に鳴り響いておりました。まさか、このような形でお目にかかれるとは思いませんでしたが──今日、こうして拙荘を踏んでいただいたのは、わたしにとっても望外の幸いです。

林冲:「恐れ多いこと。柴大官人の風の噂は耳にしておりましたが、まさか本当に海内にそのような方がおられるとは。ただただ敬仰するしかございません。流罪の身になってから、こうして尊顔を拝することが叶いましたのは、まさに前世からの縁でございましょう。」


 柴進は、山客に命じて酒と肴を運ばせた。

 だが出てきたのは、肉一皿、餅一皿、酒一壺、米一斗に金十貫──という、いささか質素な“配軍向けの膳”であった。

 柴進が立ち上がって言う。


柴進:「すぐに取り下げろ。まず果物と酒を出し、しかるのち羊を一頭つぶして、相応の席を整えよ。……林教頭、大変申し訳ない。村の者は客の高低を知らないのです。教頭どのにこのような粗末なもてなしとは失礼千万です。」


 林冲は慌てて立ち上がった。


林冲「柴大官人。そこまでなさらずとも、この程度で十分でございます。」

柴進:「いや、そうはいきません。教頭どのを軽んじることは、わたし自身の目を侮ることと同じ。ほら、早くしてください!」


 やがて果物と酒が並び、柴進は三杯を手ずから勧めた。

 そのあと、公人二人にも酒が振る舞われた。

 やがて、庄客が走ってくる。


庄客:「教師(きょうし:武芸の師匠)が参りました。」

柴進:「ちょうど良いですね。一緒に座ってもらえばなお面白い。卓を一つ増やしてください。」


 林冲が振り返ると、頭巾を斜めにかぶり、胸を張って歩いてくる男がいた。彼は洪教頭(こう・きょうとう/Hóng Jiàotóu)。柴進に武芸を教えている師である。

 林冲は慌てて立ち上がり、深く一礼した。


林冲:「林冲、謹んでご挨拶申し上げます。」


 ところが洪教頭はちらりと見ただけで、あいさつを返そうともしなかった。柴進は、さすがに顔を曇らせる。


柴進:「この方が、かの東京八十万禁軍の槍棒教頭──林武師どのですよ。」


 林冲が、もう一度丁寧に拝礼する。


洪教頭:「……礼はよい、起きなさい。」


 それだけ言うと、洪教頭は上座にどかりと腰を下ろし、林冲を肩下に座らせた。

 穏やかな気質の柴進であるが、これではますます面白くない。


洪教頭:「大官人はどうして配軍風情をここまで厚くもてなすので?」

柴進:「おやおや、それは大した言いようです。この方は他の配軍とは違います。正真正銘の禁軍教頭です。師父はこの人を軽んじてはなりません。」

洪教頭:「大官人は武芸がお好きだから、配軍のたぐいが“教頭だの、教師だの”と名乗って押しかけ、酒食と金をたかりに来るのです。そして彼らは私が大官人の教師であると聞けば、寄って来て手をすり寄せ、うまい汁を吸おうとする者ばかり。大聖人(孔子)がこう言うではありませんか。『便辟、友善柔、友便佞,損矣(へつらう友、表面上だけ柔和な友、口先だけで言葉巧みな友は、自分に害を与える)』と。こやつもそんな“損者三友(自分が損をする三つの友)”に違いありません。」

柴進:「これは困ったことを言いますね。師父、それは違います。この方は、まぎれもなく“益者三友(自分に益をもたらす三つの友)”の方でしょう。同じく大聖人の言葉を借りるのであれば、『友直、友諒、友多聞,益矣(正直な友、誠実な友、学識の豊富な友は、自分にとって益となる)』です。確かにわたしが招く人は玉石混合ですが、今回ばかりは林武師を敬うべきです。」

洪教頭:「名が体を表すわけではありません。林教頭の評判がどれだけ高くても、噂に過ぎません。こうして配軍などに落ちてしまった以上、当人に問題があることは間違いなし。大官人は、もう少し人を見る目をお持ちになったほうがよろしいでしょうな。そもそも、これが林教頭でないという可能性もありますよ。そのへんのごろつき囚人が、名を騙っているだけかもしれないではありませんか。」


 林冲はじっと黙って杯を見つめた。

 柴進はさすがに黙っていられない。


柴進:「わたしは噂だけで判断したわけではありませんよ。この目でこの方と会って、この方が尊敬するべき人物であると感じたのです。師父はちゃんとこの方を目にしていますか。この方を軽んじるのは慎まれた方が、ご自身の格を損ねませんよ。」


 この言葉がさらに洪教頭の癇に障ったらしい。

 彼はこう切り出した。


洪教頭:「なるほど、なるほど?では、こう致しましょう!この男が“本物の教頭”だというなら、私と棒を交えなさい!それではっきりするでしょう。柴大官人も、この配軍が真の教頭か、それとも偽者か、見分けたいはずですな?」


 芝居めいた挑発に、柴進は静かに口元をほころばせた。

 その笑みは、焔の揺らぎを操る風のように軽やかでありながら、場の空気を一瞬で引き締める。


柴進:「面白い。——林武師、いかがでしょう。ほんの数合、手合わせを願えませんか。」

林冲:「……小人のような者には、畏れ多いことです。柴大官人の師父に刃を向けるなど、とても……」


 洪教頭は内心で大きく嘲笑した。

 ——見たか、やはり腰が引けておる。口だけの教頭よ。

 しかし、柴進は一歩も退かない。


柴進:「ここにいる者は皆、江湖の道理を心得た者ばかり。真も偽も、棒が二度交われば分かります。そこに身分の上下は関係ありません。力量があるか否か、それだけです。」


 そして、声をひそめて、しかし確かに響く調子で続けた。


柴進:「これは——私の願いでもあります。どうか、断らずに。」


 この一言に、林冲は静かに腹を括った。


林冲:「柴大官人のお望みとあらば、僭越ながらお受けいたします。」


 その夜——

 月が昇る。堂裏の広場は白昼のように明るくなった。

 庄客たちが束になった棒を運んできて、地面に並べる。

 洪教頭は先に衣を脱ぎ、裾を捲り上げ、一本の棒を手に取ると、派手な旗鼓(きこ/Qí Gǔ:抱拳礼などの所作を含む実戦前の基本的な礼儀姿勢)の形をとって見せた。

 ここで、しばし沈黙。柴進たちの視線が、小さく脇に立ち尽くしている護送役人、董超と薛霸に注がれる。


柴進:「何をしているのですか?」

董超:「……は?」

洪教頭:「早くしろ。」

薛霸:「……え?」

柴進:「早く枷を外しなさい。」

董超:「え……は?いや、それはその……」

柴進:「林武師が逃げ出すわけがないでしょう。早く取りなさい。」

洪教頭:「それとも何か、貴様らはこの男が負ける言い訳を作りたいつもりか?『枷をはめられていたから負けました』と言わせたいのか?ぐずぐずするんじゃない!」

薛霸:「あ……はい、はい、はい……」


 董超と薛霸が顔を一瞬見合わせてから、言われるがまま慌てて林沖の枷を外す。


バカリ!——


 林沖が深く息を吸い、凝り固まった肩と首を静かに回した。

 わずか数秒の動作だが、広場の空気が変わる。

 それから、彼にも棒が手渡される。彼はこれもゆっくり、ぐるりと棒を左右に回してみせた。


洪教頭:「さあ、来い!」

柴進:「林武師、お願いしますぞ。」

林冲:「柴大官人、それでは、お言葉に甘えます。師父、よろしくご指導願います。」


 二人は月明かりの下で対峙した。

 林冲は山東大擂(さんとう・だいらい:大ぶりの打ち込み)の棒法を繰り出す。これに対して、洪教頭は河北夹槍(かほく・きょうそう:鋭く突き込む型)の棒術で応じた。

 四、五合、棒が交わる。

 すると林冲はひらりと跳び退き、棒を下ろして一礼する。


林冲:「少々お待ちを。これにて終いにしましょう。」


 一同が騒然とする。

 柴進が不思議そうな顔をして言う。


柴進:「どうしました。まだ本気でやってはいないでしょう。」

林冲:「今のところは、これが精一杯でございます。」


 林沖は悟ったのだ。洪教頭は自分の相手にならない。このまま続ければ、相手を叩き伏せるしかない。それは洪教頭を師父と仰ぐ柴進の顔を潰すことになりかねない。

 だからと言って、逆に手を抜いて負けて、それが柴進に見破られれば、洪教頭の面子を奪う。

 ならば、引いて“波風を立てない”のが最善——林冲は、そう判断した。


洪教頭:「怖気付いたな!それみろ、この程度の男だ!柴大官人、これではっきりとしましたな。茶番は終わりだ!はっはっは!」


 柴進は苦笑しながら頷いて、ひとまずはこの場をお開きにした。

 だが、彼は林沖の力量をしっかりと見抜いていた。


柴進:(林武師の棒さばき……ここまで枷をつけて過酷な長旅をしたにも関わらず、何一つの濁りも感じられなかった。あれは明らかに洪教頭の上を行っていた。……“本気の林冲”を見たい……)


 そして、翌日——

 柴進が再び酒宴を張ると言い出した。

 日が暮れて月が昇ると、柴進は席を立った。


柴進:「二人の教頭どの。今度こそ、本気で一棒、交えていただきたい。」

洪教頭:「何を仰るのです? 昨夜、二人とも本気でやりましたぞ?」

柴進:「林武師は過酷な長旅を経て、枷を外したばかり。力を振るえなかったのは明らかでした。師父はそうした相手を気遣って、敢えて手を抜かれた。あれでは、勝負とは申せません。」


 洪教頭は「あれが本気だった」と言えず、言葉を失う。

 そこで柴進は声色を変えていう。それは場をまとめる者の声音であり、心の底を静かに煽る風のようでもあった。


柴進:「よって、ここに改めて勝負の場を設けます。そして、この銀を“勝者の礼”と致しましょう。」


 庄客が、銀二十五両を一塊で運び出す。

 月光を浴びて光を返すそれは、挑発でもあり、舞台装置でもあった。


柴進:「わたしは、お二人が“真の力量”を示してくださるのなら、それにふさわしい礼を尽くすべきだと考えました。どうか昨日の枷の影を引きずらぬ、清々しい勝負を。洪教頭も気遣いは無用。存分に林武師と戦ってください。」


 洪教頭の鼻腔を、慢心と怒気が一気に満たした。さらに昨日の柴進の一言——「この方を侮るな」を思い出し、顔がみるみる紅潮する。

 林沖はというと、何か覚悟をした様子である。どうやら柴大官人には自分の力が見抜かれているらしい。となれば、ここで再び手を抜いたり、策を使ったりすれば失礼に当たる。本気で打つしかない、と。

 こうして棒束がふたたび並べられ、月下、二度目の対峙が始まる。

 洪教頭は大きな形をとってみせた。“把火焼天(はかしょうてん)”という派手な構えである。一方の林冲は、“撥草尋蛇(はつそうじんじゃ:草を分けて蛇を探す)”という、小さく地味な構えである。


洪教頭:「ふん、来いッ!」


 洪教頭が棒を振りかぶり、上から打ち下ろしてくる。

 林冲は、さっと後ろへ引き、洪教頭が追い足を踏むのを見計らう。

 二撃目が来た瞬間──洪教頭の足運びに、わずかな綻びが出た。

 そこを、林冲は見逃さなかった。

 棒を地面ぎりぎりに滑らせるように振ると、洪教頭の臑(すね)の骨を横から薙いだ。


 ごきり。


 洪教頭は棒を取り落とし、そのまま地面に転がった。

 柴進は、大いに笑いながら立ち上がる。


柴進:「はははっ、やはり!見事でした、林武師!さあ皆、酒だ、もう一献!今日の勝者に祝杯を!」


 庄客たちも一斉に笑い声をあげる。

 洪教頭は顔を真っ赤にし、庄客たちに支えられながら、庄の外へと消えていった。

 柴進は林冲の手を取り、再び堂へ戻った。


柴進:「“富みて驕らず”とは孔子の弟子・子貢の言葉ですが……人は慢心ひとつで、どこまでも足を滑らせるものですね。今ので、師父殿の高すぎる鼻も、ほんの少し低くなったでしょう。」


 そして、柴進は銀塊を指し示しながら軽く笑った。


柴進:「さて。約定どおり、この銀は本日の勝者——林武師、あなたのものです。」


 林冲は慌てて首を振って言う。


林冲:「とんでもありません。受け取る理由がございません。」

柴進:「理由なら、たった今ご自分で示されたではありませんか。技は、正当に讃えられてこそ輝くものです。」


 そうして柴進は、林冲を庄で数日もてなし、毎日酒と肉を惜しみなく供した。五、七日経ったころ、董超と薛霸が、さすがに急かし始める。


董超:「あの……そ、その……そろそろ滄州へ向かわないと……わ、我々の立場が、たいへん都合が悪くなると申しますか……」


 虫の鳴くようなかぼそい声で、手を擦り合わせながら言う。薛霸はただそれにこくこくと頷くばかり。

 柴進は「わかった」と短く告げ、林冲のもとへ向かった。


柴進:「林武師。このまま私の庄に滞在なさっても構いませんよ。牢城営にも顔が利きます。“ここで労役を務めた”という形にすることもできる。その間、どうか私に武芸を教えてください。これは願いです。」


 林冲はゆっくりと首を横に振った。


林冲:「……ありがたいお申し出ですが、法は法。たとえ理が通らなくとも、自ら背けば、自らの心を欺くことになります。私は、然るべき場所へまいります。」


 柴進が深く息を吸い、その決意を尊重する。


柴進:「承知しました。そこまで意志が定まっているのなら、私が口を挟むべきではありませんね。」


柴進:「わかりました。そこまで意志が固いのであれば、その通りにしましょう。」


 送別の宴が開かれ、最後に柴進は林冲に二通の書状を渡した。


柴進:「一通は滄州の大尹(たいいん:州の長官)、一通は牢城営の管営(かんえい:監獄兼軍営の責任者)・差撥(さっぱつ:現場監督官)宛です。彼らとは旧知の仲。この書状さえあれば、林武師を粗末に扱うことはないでしょう。」


 さらに、柴進は二十五両の大銀一塊を林冲に与え、公人二人にも五両ずつ手当を渡した。


柴進:「数日すれば、冬衣と必要な物資をここから送らせます。どうか、ご無事で。また、きっと会いましょう。」


 林冲は、何度も頭を下げてから、再び枷をかけ、庄を後にした。

 滄州——ここは小さな城とはいえ、六街三市を備えた一つの州。

 それゆえに、官の力もそれなりに大きなもの。

 林沖は州衙(しゅうが:州庁)に公文を出し、大尹に拝面し、そこから牢城営へ回されたが……果たして、柴進の口利きがなければここまで円滑に手続きが進むことはなかったであろう。

 董超と薛霸は、回文(かいぶん:受領証明)を受け取ると、逃げるように東京へ帰っていった。

 牢城営の門は高く、土塀は厚く、天王堂(てんのうどう)の前には柳が並び、点視(てんし:点呼)台の前には松が立っている。

 ここに出入りするのは、皆、歯を食いしばる“咬釘嚼鉄(こうていしゃくてつ)の男”たち。諦めることを知らない者ばかりだ。

 林冲は、まず単身房(たんしんぼう:新入り用の一室)に入れられた。そこで、ほかの罪人たちが、小声で教えてくれる。


囚人一:「おい、新人。ここの管営と差撥は、筋金入りの“銭の亡者”だぞ。金を出せば門をくぐるときの“百本の殺威棒(さついぼう)”も免じてくれるし、ある程度自由にもしてくれる。だが、一文もないとわかれば、土牢に放り込み、生きることも死ぬこともできない目に遭わせる……」

囚人二:「いいか。ここの“相場”は、こうだ。管営に五両、差撥に五両。これが“命をつなぐ最低線”だ。それができないのなら、お前は覚悟を決めておいた方が良い。」


 しばらくして差撥が入ってきて、新入りを見回した。


差撥:「新しく来た配軍(はいぐん)はどいつだ。」


 林冲が一歩前へ出る。


林冲:「私にございます。」

差撥:「……ふん。」


 林沖はいまの噂が本当かどうか、しばし確かめてみることにした。自分がここで生き延びて東京に帰るために、まずは正しくここの“風土”

を観察しなければならない。

 差撥は林冲が金を出さないのを見て、顔色を変える。


差撥:「この贼(ぞく)配軍め。おれを見て、なぜ平然と突っ立っていられる?東京で悪事を働いたくせに、いまだに“おれのことを怖がらない”顔をしてやがる。そのツラ、飢え死にする運命が刻み込まれてやがるぞ。打っても死なず、拷問しても口を割らないような性格だな。だがまあ、それもここまでだ。あいにく、おれの手に落ちたからには、粉々にしてやる。あとで、“見本”を見せてやるよ。」


 そう吐き捨てる差撥に対して、林冲は冷静に黙っている。


林沖:(なるほど、語気ばかりは強いが、大した問題もなさそうだ。ここの牢ははっきりしている……先ほどもここの仲間が教えてくれたように、分かりやすく腐っているだけだ。仁や義などが関わると問題は難儀となるが、ここはただ銭さえあれば何でもできるというわけだ。)


 そして、少しばかり差撥の怒気が去るのを待ってから、包みの中から五両取り出し、にこやかに差撥を呼び止める。


林冲:「差撥の兄上。ささやかな礼でございます。」

差撥:「あぁ……!?あぁ……ほう……なるほど……?うん、それは良い心がけだな。だが、これは管営と折半ということか?」

林冲:「いえ、それは兄上へのお礼でございます。管営どのには、別に十両用意いたしました。どうか、お取り次ぎを。」


 差撥が顔を一変させて笑う。


差撥:「まったく、お人が悪い!最初からこれを出しておられたら、あんな脅し文句など必要なかったのに!林教頭、名はかねがね聞いておりましたよ。やはり、ただ者ではないと思っておりました。これだけの人物を、あの高太尉が妬んで陥れたと見えます。今は少し苦労なさるでしょうが、じきに大きく出世なさるでしょうとも!へへへ!」

林冲:「これもひとえに兄上のお引き立ての賜物です。」

差撥:「任せておくんなさい!」


 林冲は、さらに柴進の書状二通を差し出した。


林冲:「こちらに、柴大官人からの書状が二通ございます。ひとつ、管営さまにもお目通りいただければ。」

差撥「……なるほど、なーるほど!柴大官人の書なら、一通が“金塊一つ”の価値がありますなぁ!これがあるなら、心配はいらん。これから管営に届け、あとの手配はおれが全部やらせてもらいますよ!後で管営が“新入りには百本の殺威棒だ”と言い出でしょうが、教頭どのは“道中で病を患い、まだ治っていない”と言ってください。それでちゃんと通じますからね。」


 差撥は銀と書状を持って、管営のもとへ向かった。

 管営は書状を開き、柴進の名を見ると、眉を緩めた。


管営:「柴大官人の知己ならば、粗略には扱えんな。高太尉の命で流されてきたとはいえ、大事を犯したわけでもなし。適当に“儀礼だけ”済ませておけ。」


 やがて、天王堂前で、新入りの点呼がかかった。


牌頭(はいとう:点呼係):「新到の罪人、林冲──前へ!」


 林冲が進み出ると、管営が“旧制”を告げる。


管営:「太祖武徳皇帝(たいそ・ぶとくこうてい)が残された旧制では、新たに牢城の配軍となる者は、まず百本の殺威棒を受けねばならん。左右、こいつを担ぎ上げろ。」


 林冲は、前もって言われていた通り、頭を下げて訴えた。


林冲:「小人、道中で風寒(ふうかん:風邪)を患い、まだ治っておりません。どうか、“病中につき仮寄せ”としてお許しください。」


 牌頭が意味ありげな目つきで応じる。


牌頭:「この者は、たしかに病気の様子です。どうか、しばらく打擲をお見送りください。」


 管営はしばし考えるようなふりをして、頷いた。


管営:「よかろう。病が癒えてから、あらためて打つことにする。ひとまず“寄せ置き”としておけ。」


 そこに、すかさず差撥が口を挟む。


差撥:「ちょうど天王堂の番人が、長く勤めて交代の時期です。林冲を、そこへ差し替えてはいかがでしょうか。」


 管営はその案を受け入れた。差撥は単身房へ戻ると、林冲の荷物をきちんとまとめさせ、天王堂へ連れて行った。


差撥:「林教頭。これが今のところ、おれはにできる限りのことです。というのは、天王堂の番はこの牢城営で一番楽な役目でしてね。朝晩、香を焚き、堂内を掃くくらい。それに比べて、ほかの囚徒どもは、朝から晩まで重労働となります。土牢の連中に比べれば、天界と冥府の違いですよ。」

林冲:「これも、兄上のおかげです。これをお受け取りください。」


 林冲はさらに三、二両の銀を取り出し、差撥に渡した。

 差撥は「もらい過ぎです」と言いながらも、あからさまに嬉しそうな様子でこれを掠め取る。

 林沖はその様子を見ながら、こうも言う。


林冲:「できれば、この枷を外していただければ、なおありがたいのですが。」

差撥:「これは気づきませんで、失礼をいたしました。もちろんです。お任せください!」


 差撥は管営に話を通し、林冲の護身枷は、完全に外された。

 こうして林冲は、天王堂の一角に寝床を作り、ほかの囚人たちよりはるかに軽い仕事だけをこなす日々を送るようになった。

 柴進からは言葉どおり冬衣と金が送られ、林冲はその一部を、ほかの囚人たちに分け与えた。


林冲:(“金があれば神仏とも通じる”という言葉は、まったく嘘ではないというわけだな。私はずっと禁軍にいて純粋に武芸を教えていたから、このような政治のやり方とは無縁であったが……ここまで官が腐っているとは思わなんだ。こんな地方の牢でさえ、この有様であったとしたら、東京の者たち——高俅などはどれだけ汚いことをしでかしているのだ?想像もできん……)


 林沖の賄賂はまさしく抜群の効果を示し続けた。誰もが林冲にはほとんど口を出さず、危険も何一つとしてなかった。

 こうして四、五十日が過ぎ——

 ある日の巳刻(みこく:午前十時前後)。林冲は、ふと天王堂を出て、営前を散歩していた。

 冷たい風が吹き始め、冬の気配が近づいている。

 その背中に、不意に声が飛んだ。


男:「これは、林教頭ではありませんか!どうして、ここに?」


 林冲が驚いて振り返る。

 彼の牢の運命が、ふたたび大きく軋(きし)み始めた瞬間であった。

 いったい、誰が彼を呼び止めたのか。

 その名は──次の段で語ることにしよう。


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※補足:ニニの『械胡伝』制作メモ、ぼくらは『水滸伝』をこう書き直した


やあやあ、ニニです。第九回、原作(百二十回本)の骨格はちゃんと残ってる。……そのうえで、「同じ出来事なのに、読後感が“現代小説のスリル”になってる」のが今回の改造のキモ。では、原作からどこをどう変えて、何を“強くした”のか、要点だけ切っていこう。


◈ まず原作の第九回は何をしていたか

原作は大きく三段。


・野猪林で魯智深が林冲を救う(前回の続きの締め)

・村の酒店で「小旋風・柴進」の噂を聞く

・柴進の庄で歓待 → 洪教頭の挑発 → 棒試合 → 林冲が勝つ


その後、滄州牢城営に入って「賄賂で待遇が変わる地獄」を見せ、次回へ引き

つまり原作は、“義侠のネットワーク(江湖)”と“官の腐敗(賄賂)”を、林冲の受難に重ねて見せる回だね。


◈ リメイク版でいちばん大きい変化:視点が「物語」じゃなく「観察」になった

原作の林冲は、出来事に押し流されながらも強い人だけど、内面はわりと簡潔に処理されがち。

ところがリメイク版の林冲は、ずっと頭が働いてる。


・店で冷遇されても、すぐキレ散らかさない(※少し苛立つのは人間らしくて良い)

・牢城営でも、差撥の脅しを見て「なるほど、ここは“分かりやすく腐ってる”」と分析する

・「仁や義が絡むと難儀だが、ここは銭で割り切れている」と、腐敗の“構造”を言語化する


これ、地味だけど強烈だと思う。

原作の“出来事の面白さ”を、リメイクでは“世界の仕組みの怖さ”に変換した。

読者は林冲と一緒に、社会の底の冷たさを観察させられる。……ニニはこういうアイロニーな感じが楽しい。


◈ 柴進の描き方:ただの「良い大官人」から、場を支配する“演出家”へ

原作の柴進はもちろん魅力的だけど、基本は「豪気に金を出す、義士を迎える人」。

リメイク版はそこにもう一段乗せた。


・店主の説明が「柴進は表で目立たない」「ここ以外では名が知られていない」と、“静かな権力者”として描かれる

・柴進の微笑みが「焔の揺らぎを操る風」みたいに、空気の温度を変える装置になってる

・洪教頭への対処が、正面から殴り返すのではなく、“勝負の舞台(銀)を置いて、本人に自滅させる”設計になってる


要するに、リメイクの柴進は「優しい金持ち」じゃなくて、“江湖の人材を回すプロデューサー”なんだ。

原作より一段リアルに書き込んである。


◈ 洪教頭の改造:ただの嫌味役 → 「小賢しい正当化マシーン」へ

原作の洪教頭は「嫌なやつ」として分かりやすい。

リメイク版は、そこを“現代化”した。


・ただ侮辱するだけじゃなく、孔子の言葉を盾にして相手を腐す

・「配軍が教頭を名乗ってたかりに来る」など、もっともらしい“現場あるある”で柴進の善意を汚す

・「本物かどうか怪しい」「騙ってるかも」など、疑いを武器にする


つまり洪教頭は、単なる乱暴者じゃなくて、“偏見を理屈で正当化できるタイプ”になった。

これ、原作より嫌らしい。だからこそ、倒したときの爽快感が増える。


◈ 棒試合の構成:原作の「一回の流れ」→ リメイクの「二幕構成の心理戦」

原作でも「枷のせいで本気が出せない→外して再戦」はある。

でもリメイクは、それを心理のドラマとして磨いてる。


一戦目:林冲が「勝てるけど勝たない」を選ぶ

→ 柴進の顔、洪教頭の面子、どれも潰さない“撤退”

二戦目:柴進が舞台(銀二十五両)を置いて、逃げ道を消す

→ 林冲も「見抜かれてる以上、本気で打つしかない」と腹を括る


これにより、原作の“見世物”を、リメイクでは“格と覚悟の衝突”にした。

林冲が強いだけじゃなく、「強さの使い方」が描かれる。


◈ 牢城営パート:原作の“賄賂システム”を、もっと露骨に、もっと現代的に

原作でも「管営5両・差撥5両」が相場で、払うと待遇が変わる。

リメイクはそれを、さらに“冷たい笑い”に寄せた。


・差撥の脅しが、暴力というより“恐怖マーケティング”(最初に脅して、あとで金を出させる)

・林冲が賄賂を出す場面が、交渉として整理されてる

・「これは兄上へ」「管営には別に十両」──完全に取引


そして林冲自身が「ここは分かりやすく腐ってる」「金があれば神仏とも通じる」と結論付ける。

つまり読者は、「悪い役人がいる」じゃなくて、“腐敗が制度として機能してる”のを理解させられる。まさに現代社会のメタファー。

嫌なリアリティが増えたぶん、物語の地力も増えたかもね。


◈ さりげない改良点:魯智深を“あえて出さない”ことで、林冲の章になった

原作のこの回は、冒頭に魯智深の救出がドン!と来る。

リメイク版(今回貼ってくれた範囲)はクリフハンガー方式のフックをいったん避けて、それを第八回の時点に組み込んだ。

だから、今回は柴進〜牢城営に集中している。

結果としてどうなったか?


・林冲が「救われる人」から「自分で生き延びる人」へ寄る

・江湖の温情(柴進)と官の腐敗(牢城営)が、一本の線で繋がる

・次の「背後から声をかける男」への引きが、より不穏に効く


魯智深が強すぎるからね。出すと物語を持っていっちゃうんだ、あの和尚。

だから構成を変化させて、林沖の存在感を格上げしてみたわけ。

林沖はしばらく後で、梁山泊の新体制を生み出す決定的な事件を起こすからね。ここで存在感をしっかり強く定着させておくと、その伏線が後で活きると思う。


◈ まとめ:今回の“変化”は、原作の「義と腐敗」を、現代小説の「構造と心理」に変換した


・柴進:豪侠 → 空気を支配する人材プロデューサー

・洪教頭:嫌味役 → 偏見を理屈で正当化する小賢しい権威

・林冲:悲劇の武人 → 観察して最適解を選ぶ、静かな強者

・牢城営:悪人がいる場所 → 腐敗が“ルール”として回る場所


原作の面白さを捨てずに、読み味だけ“現代のサスペンス”に寄せた。

読者は「痛快だったね」だけじゃなく、「うわ、これ現代にもあるやつだ……」って背筋が冷えると思う。

 
 
 

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